03


それから一週間、俺は大変な目に合った。

初日には学校帰りに制服デートをするんだと連れ回され、

二日目には風呂に一緒に入って背中を流してあげると言い出し、

三日目の休日には家の中で俺にべったり引っ付いて、(両親には仲が良くなったみたいで良かったと言われた)

四日目には私服デートだと言って遊園地に連れていかれ、

五日目に疲れてソファーで転寝をしていればキスをされ、

六日目は緩んだ心を引き締めて学校へ行けば放課後あいつが学校まで乗り込んできて、

七日目の夜には俺のベットに潜り込んできた。

本当、大変だった…。

俺はソファーに身を預けて遠い目をする。

「……先輩?」

そんな俺に今日も一緒に帰ってきたオトウトが、床に正座しながら伺うように俺に声をかける。

「ん、あぁ。付き合うかどうかだったな…」

そう今日がタイムリミットだ。

俺は一週間を振り返って答えをだす。

「結論から言うと…」

俺の言葉にオトウトはごくりと生唾を飲み、じっと待つ。

「Noだ」

「ええええぇ―――!!」

断られるとは思わなかったのかオトウトは煩く叫ぶ。

「何で!?何でだよ!!」

「煩い。一週間付き合ってやっただろ」

「えぇ〜!!オレ頑張ったのに」

オトウトは立ち上がりソファーに座っている俺の肩を揺さぶる。

「だからこれからは俺のこと先輩じゃなく兄って呼べ」

「嫌だ」

口を真一文字に結びオトウトは今にも泣きそうな顔をする。

「そういう約束だったろ?」

「うっ…先輩のいじめっ子!!いいもん、今度は惚れ薬作ってもらうから!!!」

オトウトはそう言って家を飛び出して行ってしまった。

オトウトの出て行った扉を見ながら俺はぐったりとソファーに横になり、顔を掌で覆う。

「別に嫌いな訳じゃない。お前の好きはまだ幼いんだ」

キスをしかけてはくるものの触れる程度のものでそれ以上はしてこない。

一緒に風呂に入っても本当に背中を流すだけで、ベットに侵入してきても俺にぴっとりくっついて安心した様に眠るだけ。

無邪気に笑いかけては好きだ、付き合って、と言うが本当の意味を理解してないだろ?

俺がお前を好きになったらそれだけじゃすまないんだぞ?

一人の男として見てくれって言うが俺だって男だ。四六時中一緒に居ればお前の理解していない、その先へ進むことになる。

その時、傷つくのはお前だ。

だから俺はYesとは言わない。

「お前がもう少し大人になって、理解したら応えてやるのに…」

それを聞く前に家を飛び出したお前はやっぱりまだ子供で、純粋に俺が好きだという想いしか持っていない。

俺の気持ちは、お前の一週間の頑張りで可愛い弟からなついてくる一人の少年になった。

ストレートに想いを伝えるしか術を知らないみたいに、一生懸命俺を落とそうとするお前に、絶対に落ちないと思っていた俺は心を揺さぶられた。

でもまだ応えることは出来ない。

俺の想う“好き”とお前の抱く“好き”の深さや重さが釣り合っていないから。

「帰ってきたらどうするかな…」

俺は困った顔をしながらも、そこまで俺を想ってくれているオトウト、いや一人の少年の姿を思い浮かべて愛しげに笑みを溢した。






END


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